2016年10月12日

大隅良典先生と科研費の行方

2016年のノーベル医学・生理学賞が大隅良典先生に決まった。長い間ノーベル賞候補に挙げられながら受賞を逃した何人もの日本人研究者がいる中で、ずっと本命候補に挙げられながら後回し(?)にされてきた大隅先生がやっと受賞されたことは、本当に嬉しいし、日本の科学技術にとって極めて大きなことだと思う。私ごとながら、特に、本受賞に大きく貢献されてきた吉森保先生(大隅先生の愛弟子でいまは大阪大学教授)とは多少の親交があることもあって、私には吉森先生がノーベル委員会に認められたようにも感じられて2重に嬉しいのである。

ところで、この賞のことは既にマスコミでいろいろ取り上げられており、いまさら私がチマチマと意見を書く必要も余地もないのだが、実はちょっと考えることがあって、久しぶりにこのブログに書きたいと思ったことがある。

大隅先生がマスコミの取材に繰り返し語っていることに、基礎研究の重要性がある。いや、基礎研究に対する社会の考え方の重要性というものがある。昨今、研究者には常に科学技術の社会実装が求められ、役に立たない研究は切り捨てるという傾向が強まっている。そもそも基礎研究には役に立つとか立たないとか、そんなこととは無縁なはずで、生命の神秘をただ単純におもしろいと感じる研究マインドが、後に極めて重要な成果に繋がっているのだ(例えば今回の受賞のように)。もし大隅先生が役に立つ研究だけを強いられていたら今回の受賞はなかったかもしれない。「役に立たない研究には研究費を付けない」風潮が続けば、日本の科学技術の将来は明るくない、と大隅先生は強調されている。

これは多くの基礎生物学者が常々感じている、感じてきたことである。基礎研究を支えるべき(実際支えてきた)科学研究費補助金、いわゆる科研費の申請書にさえ、この研究が何の役に立つかということを書かせる欄がある。それ自体を否定はしないが、いつも何か違う、と感じている研究者はたくさんいる。もちろん役に立つ研究が重要なのは言うまでもない。しかしそれだけでは科学は枯渇する。そのことを社会はきちんと理解する必要がある、と私は強く思うのだ。

いま、おりしも科研費の申請時期だ。私も毎日どんな戦略で文章を綴っていけば採択されるか頭を悩ませている。今回のノーベル賞の受賞で大隅先生が役に立たない(ちょっと言い過ぎかもしれませんが)研究の重要性をはっきりと述べられた。果たして科研費の審査にこの言葉は影響を与えるのだろうか。一見役に立たなさそうな研究の採択率が上がるのだろうか。できればそんな視点で、来年の科研費採択率を評価してもらいたいと真剣に思っている。



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2014年11月15日

第15回サイエンスカフェ

久しぶりにサイエンスカフェをやりました。ゲストにお迎えしたのはヒューストン大学の藤田昌也先生です。

藤田先生の専門は細菌芽胞(胞子?)。芽胞と言えば枯草菌。枯草菌と言えば芽胞。そんな芽胞の研究を、もう20年以上続けている。

話を詳しく聞けば、苦労人であることがわかった。アメリカでPIをやっているといえば聞こえは良い。華やかな人生を歩んで来られたんだろう、と想像した。でも、本人曰く、とんでもない、もう必死で生き残って来たんです、といいはる。

確かにいろいろあったようだ。良い時もあれば、かなりの苦労もした。でもいろんな人に助けられ、運も味方し、そしてその時その時で、できる限りのベストを尽くす。それが今の結果に結びついたんでしょうか。ニコニコしながら淡々と、そんな風に自分の歴史をかたられた。

サイエンスカフェでは、アメリカで今のポジションを得るまでの経緯を、節目となった研究成果と重ねながら話していただいた。残念ながら途中で何度か席を外さざるを得なかったが、リアリティ満載のお話をワクワクしながら楽しませていただいた。

藤田先生とのつながりは、抗体をもらったことから始まった。その後実験について少し相談もしたが、メールだと何かとまどろっこしい。いっそのこと来てもらいましょうか、ということで来日が実現した。1週間の滞在中に、他にも講義やらセミナーやら学生進路相談やらいろんなことをやっていただいた。その間、いろんな話をして親交を深めた。

藤田先生、ありがとうございました。粗暴なもてなしにもニコニコ応えていただく、実直で穏やかなお人柄には頭が下がりました。これからもよろしくお願いします。





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2014年08月05日

ダメだったらやり直したらいい

この前たまたま、ダメだったらやり直したらええやん、てなことをちょこっと考えてた。理由は、日本という国が間違いや失敗に厳しいなあ、と感じたからだ。

人間なんやから、間違うこともある、読みが外れたり、うまくいかんかったりすることも当然あるでしょ。そりゃあ、それで大損したり、みんなに迷惑かけたらペナルティはいる。しばらくはおとなしく、失敗のツケを負って、清貧で暮らすこともそりゃ必要です。

でも、そのあとでまた凄いアイデアが出て来た時、それにチャンスが与えられる世の中でないとダメだと思う。でなけりゃみんな失敗を恐れてチャレンジしなくなる。当たり障りのないことをやってお茶濁して、安定を求める人ばかり。オリジナリティのある人が出てきたら、いつか失敗しろなんて思うのかもしれない。

気軽にチャレンジして、ダメだったら一旦引く。でもまたチャレンジできて、それが良かったらみんなで応援する。そんな世の中でないと、勝ち組と負け組にキッパリ分かれて、負け組はいつまでも勝てなくて、誰も夢を持たない世の中になってしまう。

そんなことを数日前に考えていて、考えていたことすら忘れていた今日の午後、ヤスギさんが突然「みやけセンセ、笹井先生が亡くなりましたよ」って教えてくれた。

ギョッとした。なんてこった。これはダメでしょって思った。

彼は別に犯罪を犯したわけではない。人に迷惑を、というと、かけてないわけではないかもしれないけど、でも特殊な世界でほんの一部の人にしか迷惑をかけてない(たぶん)。なぜ死ななければならなかったのだろう。

前にも書いたがSTAPのことは元々サイエンスの話だ。前にも書いたがこの世界で間違いはつきものである。まあ、問題はあったかもしれんけど、ごめんなさいって言って、論文も取り下げたんだから改めてやり直したらいいやんか、と私なんか思う。

問題はあった。でもサイエンスの問題とそうではない問題をキチンと切り分けて、それぞれの世界で裁いてケリをつけ、そのあとまたやり直したらいいやん。

なんで死者までださなあかんかったんやろう。

悲しい。この結末は本当に悲しい。ここまでしなきゃいけなかったんか?こんなことになるまで大騒ぎして誰が得したのか?

何度も言うけど、これは初めからサイエンスの話しだったんじゃないの?なぜサイエンスとして、サイエンスのやり方でキチンと処理できなかったんだろう。

このことは日本人すべてが重く受け止めて考える必要がある。もうこれ以上、悲しい事件を起こさないために。





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2014年07月19日

吉森 保先生

昨日、うちの大学院の講義に、大阪大学の吉森保教授をお招きした。朝から4コマの細胞生物学のお話しと、1時間のセミナーをしていただいたのだ。ほど丸1日先生と同じ時間を過ごして、とても心が豊かになった。なぜなら、、、、

まず吉森先生はさすがだった。細胞生物学の基礎から始まってメンブラン・トラフィックの重要性に至る過程を、論理的な流れの中でキチンと学生に説明された。細胞がなぜ袋になっているか、なぜオルガネラがあるか、その概念的利点は何か、というふうに。

そしてオルガネラが方向性を持って移動する意義は何かと展開していった。学生たちがその重要性を悟ったとき、ではこのような営みの中心となる物質は何かと問いかけた。答えは、タンパクだ。タンパクがただの袋に機能を与えるのだ。流れる論理展開に学生たちがグイグイと引き込まれていく。一部だけだが同席して、時間があっと言う間に過ぎていくのを感じた。

次に、吉森先生は楽しかった。講義の展開を上に書いたが、実際には「立て板に水」のようではなかった。時に学生たち一人一人に問いかけ、答えを待つ。要所要所にギャグを織り込む。思いだしたように留学の話しをされ、ここぞというときにアヒルの話しをする。緻密に練り上げられたオペラを聴く、というより、下町の演芸場で落語を楽しむような(失礼)楽しさがあった。インターラクティブでインプロビゼーションを楽しむジャズの魅力でもあった。おそらく、吉森先生の性格の本質がそこにあると私は考えた。

そして吉森先生は誠実であった。講義の後、セミナーまでお願いしたのに、キチンと時間通りにこなされ、質疑応答に最後まで付き合っていただいた。そして、そして、大学近くの居酒屋では、是非にと参加したスタッフ、学生たちとフランクにお酒を酌み交わし、楽しいお話をいっぱい披露してくれた。人の話を真剣に聞き、質問には真摯に答える。私にはここまでできないなあと、うで組みしながらフムフムと感心した。

最後に、先生は謙虚で和み系だった。ノーベル賞候補だと書かれながら「これは運がいいだけなんです」と謙遜する。「ありがたいことです」と研究仲間への感謝を忘れない。自慢と取られかねない栄光のエピソードの最後には、必ず1発ギャグをかましてなごませる。

優れた研究者は人間的に魅力がある。以前、京都大学の長田重一先生が来られた時に感じたことを、吉森先生にも感じた。こんなことを言ったら吉森先生はしかし、「長田先生(月)に比べたら自分なんかスッポンです」と謙遜するに違いないのだが。。。

吉森先生、本当にありがとうございました。


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2014年07月11日

第14回サイエンスカフェ at りんくうタウン

私たちのキャンパスで「サイエンスカフェatりんくうタウン」という企画を続けている。ここんこと頻度が落ちているが、それでも最低、年に1、2回は開催してきた。そして先々週の金曜日、7カ月ぶりとなる第14回目のカフェを開催した。

講師は大阪大学微生物病研究所(微研)の松浦善治教授だ。松浦先生は私たち(私?)同様獣医の出身である。学生の時は大動物診療に携わりたいと思っていたらしいのだが、ひょんなことから大学院に進学され、その後あちこちでいろんな研究に従事された後、15年ほど前から微研でC型肝炎ウイルスの研究を進めてきた。

C肝ウイルスは、ヒトとチンパンジーでしか感染しない。慢性持続感染して、かなりの人が肝がんを発症する。いったい何がこの狭い宿主特異性を決めているのか、どうやって慢性感染を成立させるのか、さらに言えばそれはなぜ、奴らにとってどういうメリットがあってそんなことをしているのか、こんなことあんなことがほとんどわかっていない。松浦先生はそんなC肝ウイルスにグイッとにじり寄って「なぜだ?白状しろ!」とばかりその原因に迫っているのだ。

この日話しを聞いて感服したのは、松浦先生の話しの巧さである。非常にわかりやすい。鍵となるポイントを、一連のストーリーの中の適切な場所に配置して、シンプルに話しをまとめていかれる。ともすれば「専門バカ」に陥りそうな、かなりマニアックな部分でも、学生たちにもわかりやすい言葉を選び、何がポイントかを明示していく。さすがである。

カフェ終了後、サイエンスカフェ恒例の懇親会で、学生たちと話をする松浦先生は、一転して、お笑いの突っ込みキャラへと豹変した。学生と楽しく会話して、ここ、という場所でタイミング良く、迷わずキチンと突っ込みを入れる。そんな突っ込みにドッと笑いが起こる。笑いの絶えない時間を過ごさせてもらった。

そんなこんなで終わった第14回のサイエンスカフェ。また呼んでね、と爽やかに微笑みながらラピートに乗り込んで去って行った松浦先生。もちろん、また呼びますとも。またあの絶妙な突っ込みを見せていただきたいですから(そこかい、と突っ込みを入れる)。


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2014年03月30日

いろいろ考えるきっかけにはなって欲しい

前回の続き。

先週、STAP細胞に関して新しい情報がでてきた。山梨大学の研究者の手元に残っていた細胞が、本来あるべき細胞でなかったという。これでSTAP細胞の存在はずいぶん怪しくなってきた。これはこれまでの情報に比べるとかなり具体的・科学的で、質が明らかに異なる。そういう意味で、世間にはショッキングなもののはずなのに、なぜか報道での取り上げ方は穏やかだ。

ああ、やっぱりね、という反応なのだろうか。もういいかげん大騒ぎするのに飽きてしまったのだろうか。いずれにしても、報道が感情的、心理的な(非科学的な)判断に基づき対応を変えているという気がして、私には気に入らない。

今回の騒ぎでは、研究者達に大きな責任があるのは間違いない。しかしそれを公表する手法、それを受けた報道のあり方にも、大騒ぎを助長する要素が「結果的」にはあったと思っている。今回のような大きな成果を得た研究者は、結果が大きければ大きいほどそれを公表することに慎重になる必要がある。そしてそれを報道する側も、それにコメントする側も、やはり慎重に対応する必要があるはずだ。あんなにセンセーショナルにぶち上げるのではなく、当初からもう少し慎重にやっていれば、こんなにドロドロの騒ぎになることがなかったのではないか、というのが私の意見である。

調査がもっと進み、最終的に白黒がはっきりしたら、科学会総出で再発防止対策が議論されるはずだ。ことは科学の世界だけの問題ではない。もっと広く、社会全体で、かつそれぞれがそれぞれに責任を持って、そのことを論議する必要がある、と私は思うのである。


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2013年01月28日

ハンセンさんもびっくりしたにちがいない(2)

さて、前回の続き。

結論から言おう。らい菌は宿主細胞に感染すると、その細胞を未分化状態に変えて、自分が感染を拡大するのに利用しているらしいのだ。

一旦、高度に分化した細胞(この場合はシュワン細胞という神経を取り巻く細胞)が、未分化な状態に戻るのは極めて異例のことだ。それが人為的にできればノーベル賞だ、と言われてきて、本当にそれをやったのがあの山中教授だった。ところが同じようなことをらい菌は、何千年も前から(もしかすると何万年も前から)人知れずヒトの体の中で綿々とこれをやっていたのである。

ただ未分化状態を作り出すならウイルスだってやっている。いわゆるガンウイルスがその例だ。彼らは細胞に感染してその細胞を、未分化な、増殖力旺盛なガン細胞へと変えてしまう。ところがこの場合、未分化な細胞はただ未分化ながん化した細胞として増殖を続けるだけだ。

らい菌がすごいところは、作り出した未分化細胞が筋肉細胞や間質細胞へと変化する潜在力を持っているところである。菌はシュワン細胞に感染すると、自分が増殖しやすいようにその細胞を未分化状態へ変えてしまい、さらに、その細胞を筋肉細胞など変化させることで、離れた場所へ自分を運ばせているらしいのだ。

もっともっと興味深い情報がこの論文には書かれているが、興味ある人には是非読んでもらいたい。最後にここで書いておきたいのは、こんなことをしてしまうらい菌が、いったいどうやってそんなことをしているのかが、今のところまったくわかっていないことだ。山中教授が4つの遺伝子を使って「魔法の杖を一振り」したのに対し、らい菌は細胞の中で何を使って何をしたのだろうか。

それがわかれば私たちは、新たな手法でiPS細胞を作り出せるかもしれない。いまやらい菌のゲノム情報は公開されている。答えにたどり着くのは思うほど難しくないかも知れない。もしかすると今年中、いや、数ヶ月後にはその答えが私たちの前に出てくるかも知れない。

やれやれ、病原細菌恐るべし。そして科学の発展バンザイである。今後の展開を、ワクワクしながら待つことにしよう。


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2013年01月27日

ハンセンさんもびっくりしたにちがいない(1)

今日は、こんな論文が出てました、という話。

その論文の主役は「ハンセン病」。ノルウェーの医師ハンセン氏らがこの病気の原因が細菌らしいと報告したのは1870年台。この菌はらい菌と名付けられた。原因が細菌であるとわかったから、なんとか抗生物質で治療ができるようになった。

しかし、この病気の成り立ちが、いまだよくわかっていない。その大きな理由が、このらい菌、人口培地で培養ができないからだ。培養できない菌でよく試されるのが、じゃあ動物に感染させてみよう、というものだ。多くはうまく動物に感染して、ヒトと同じような症状を示す。ところがらい菌はマウスなどの普通の実験動物には感染が成立しない。培養もできない、動物にも感染しない。長い間、どうしようもない状態が続いた。

しかし、地道な研究の結果、ヌードマウスという免疫力が極度に低下したマウスの足底に菌を接種すると、菌が増殖できることがわかってきた。そんなこと、あんなことが契機となって、菌のゲノム配列が決定された。2001年のことである。

増殖できるようになり、ゲノム配列もわかったため、菌の性質もだんだんわかってきた。近縁の結核菌に比べ、まともな遺伝子が半分ぐらいしかない。予想通り、動物やヒトに感染した状態でないと生きていけない、極端に偏性寄生性細菌であることが確認された。

しかしまだ、?がいっぱい残っていた。そんな弱い細菌が、なぜいまだに多くの人を感染させ、少なくとも何千年も地球に生息しづけているのか。

発見から140年の時が流れて、やっとその謎の一遍が解けた。謎を解いた論文が、今月のセルという科学雑誌に掲載されたのだ。それによるとなんとらい菌には、あの山中伸哉教授の研究ともつながる大きな秘密が隠されていたというのだ。

長くなったので、続きは次回へ。

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2012年06月30日

Science, it's a girl thing

なんだか最近、頭の中がグチャグチャだ。いろんな仕事が一度にやって来て何が何だかわからない状態にある。深く考えるとやるせなくなるので、とにかく出口を目指してガシガシと仕事を片付けることに専念しているのだが、おかげでやりのこしたものがいくつもあって、一部の方にはご迷惑をおかけしている(たぶん)。すみません。

さて、ここ数回の書き込みを見て食べ物ネタばかりなことに気がついた。で、今日はツイッターをチェックしていて見つけたこんな記事について書いてみよう。

「欧州連合(EU)が、サイエンスのすそ野を広げるために、ティーン向けの理系女子増加キャンペーン・ビデオを作ったが、それが世界中の非難を浴びている」というものである。

研究の世界はまだまだ男社会だ。日本では女性研究者の割合は10%を少し越える程度(文部科学省・科学技術白書)。欧州では概ね30%程度はあるらしいが、さらにその潜在力を大いに発揮してもらおうと、女性研究者育成に力を入れている。そのキャンペーンの一環として今回のビデオが作られた。

で、そのビデオを見てみたが、確かにひどい。いったいなんのPRかわからない、女の子がフラフラ踊っているだけのビデオで、化粧品かファッション誌のCMといった雰囲気。これ見てサイエンスに興味を持つ人がいたら、逆に「おいおい君大丈夫か」と聞きたくなるくらいだ。欧州委員会はこれ以外にも広報活動(例えばサイエンスカフェなど)を盛んにやっているらしいので、これだけ取り上げてもフェアじゃないかもしれないが、こいつはどうもいただけない。

酷評に対し欧州委員会の広報官は「まあ、このビデオの目的は、多くの若者の目をサイエンスに向けさせること。そういう意味ではこれはこれで成功したんじゃないか。」と言ったとか(ワシントンポスト誌)。これがジョークだとしたらなかなか笑える。

ところでこのビデオ、日本のツイッターでは「こんなひどいビデオ、きっと科学者が作ったに違いない」と言われている。いやいや、科学者だったらこんなもん作らないと思います。あまりにひどすぎるもの。

多分、情熱大陸的なものでしょう、科学者が作ったら。やたらとくどいヤツ。それはそれで酷評浴びるかもしれんけど、あれよりは多少マシじゃない?





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2012年02月19日

「動物のお医者さん」だけではない

最近、獣医の友人や先輩と話しをすることが多い。

大学の獣医学科の同期とは年明けから既に2度、プチ同期会でワイワイやった。今週末には3回目をやる予定だ。集まったメンバーは大学で教育をするもの、製薬企業で安全性研究に携わるもの、地方衛生研究所で臨床検査業務に当たるもの、もちろん一部は開業獣医師もいた。

先週末は獣医の先輩、O先生と焼酎を飲みながら語り合った。O先生は北の名門大学出身の獣医師だ。今は関西の大学・農学部で細菌学・食品衛生を専門に活躍されている。学会関係の打ち合わせでわざわざりんくうタウンまで来てくれたので、もう1人親しい先生と一緒に天王寺に繰り出した。

こんなふうに、獣医学を専門としながら「いわゆる動物のお医者さん」とは違う職種で活躍している人達と話をすると、やはり獣医師というのは、特殊でかつ広い専門性を持つことがわかる。

我々の世界でよく「ホールボディ」という言葉を使う。これは動物の体を丸ごと、マクロからミクロまでと、いう意味になる。動物をホールボディとして理解しているのは獣医師の特徴だ。マウスからイヌ・ネコ、大小家畜に至るまで、動物によって全然違う臓器の形や位置・仕組みについて、マクロから細胞レベルまでちゃんと大学で習うのだ。

製薬企業に就職した同期がこんなことを言っていた。薬学、理学をバックグラウンドとする研究員が会社にはたくさんいるが、彼らの中にはマウスの臓器の位置さえわかっていないものがいるという。新薬の安全性を調べるためにマウスへの毒性実験をやったデータを見ていて、ある組織の病理切片を作る必要が出てきたとしよう。「この組織を固定して切片を作って欲しい」と依頼しても、「その臓器はどこにあるのか」という質問が返って来るというわけだ。

そんな動物のスペシャリストが薬の安全性、食の安全確保、感染症の防御の分野で活躍している。もちろん生命科学の基礎研究で活躍する獣医師もたくさんいる。インフルエンザ研究で世界的に有名な大学教授もいる。

金曜日のO先生との飲み会でも、獣医学の教育ということに話が及び大いに盛り上がった。何かと規制の多いこの獣医学教育というものにあって、きちんと見識を持って社会の求める、あるいはこれから求められる獣医師を育てるには、教育を行う教員側に、広い経験とヘテロなバックグラウンドが求められる(と思う)。その結果、彼らの活躍の場がもっと広がって、獣医師のポテンシャルを世に示すことが出来るというわけだ。

で、盛り上がった結果、焼酎のボトルを2本開けてしまった。家にはなんとかたどり着いたが、その後はバタンキューだった。翌土曜日午前中はボーッとした状態。午後には回復して何とか仕事を片付け、結局この日もバタンキューで寝た。

こんなふうに飲んだくれてないで、マルチなポテンシャルを持った獣医師のことをもっといろんなところで宣伝しなきゃいけない。ま、これもネットワーク作り、いろんな人とのコミュニケーションも重要だと開き直って、今週末はやっぱり同期と飲みに行くんです。。。



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2012年01月28日

研究の結果は良くも悪しくも社会還元される

前回ちらっと書いたインフルエンザ研究のことを書いてみよう。

2人の研究者がそれぞれ別個に感染性の強い鳥インフルエンザウイルスを作ってしまった(正確には結果的にそういうものが出来てしまったということだが)、という話しの続々編となる。この研究成果を科学雑誌に投稿したら、悪用される危険性があるからと掲載をペンディングされていた。そして先週、このペンディング騒ぎにある進展があった。

と言っても掲載の可否について結論が出されたのではない。結論が出る前に、投稿した当の2名を含むインフルエンザ研究に関与する著名な39人の研究者が、先週の科学雑誌Natureに連名で声明を出した。朝日新聞で取り上げられたからもうご存じの方も多いだろう。

少しだけその声明の内容に触れておきたい。まず、論文掲載の件は著者自らが論文投稿を取り下げた。発表することは大きなメリットがあると考えるが、今は発表するのは止めにしますということだ。そして、当面60日間、39人の研究者がインフルエンザの研究を中止するという。その間に、今回のような社会へ大きな危険性を含んだ研究のあり方、成果の取り扱い方について、国際レベルで関係者と協議を開始する、という内容だ。

なるほど。一番問題が少ない理想的な形にことが一歩進んだという感じだ。今回のゴタゴタにはいろんな意見がある。論文の詳細を公表したらえらいことになるぞ、いやインフルエンザの制御には結局公表する方が望ましい、そもそもそんな研究をした研究者こそけしからんじゃないか、などなど。そんな大騒ぎの最終結論を、特定の誰か(雑誌発行社)に委ねてしまうのではなく、生命科学に関わるみんなできちんとこの問題について解決策を考えよう、ということである。

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さて、ことはインフルエンザウイルスの研究者に留まらない。人に病気を引き起こす微生物を研究する者にとって、今回の出来事は深刻な問題である。病原微生物の予防・治療・診断法を開発するには、なぜその微生物が病気を引き起こすかという命題を明らかにする必要が、どうしてもでてくる。一方で、なぜ病気を引き起こすかを明らかにしていけば、普通の菌を病原菌に作り替える方法が次第に見えてきてしまう。それは決して研究者の望んでいることではないにしてもだ。

そんな研究は禁止してしまえと言う考え方ももあるかもしれない。しかし私には、それを完全にストップして感染症と闘う手段が見えてくるとはとうてい思えない。水の中に落ちた金貨を拾うのに、手を濡らさずに拾えと言われるのと同じである。そもそも金貨を拾うのを諦めろというのなら別だが。

今回のように科学の発展が必ずしも社会に良い影響だけもたらすものではないことは前にも触れた。そして情報の溢れる現代社会において情報開示のあり方は、以前にも増して注意を必要とする。今回に類似した問題は近いうちにまた出てくるだろう。そして私たちは、目的のため取る手段がどこまでが許されるものなのか、出てくるだろう研究成果をどのように扱うべきか、社会に対する責任感を持って注意深く考えた上で、研究に着手することになるだろう。



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2012年01月22日

なかなか楽しい1週間だった、が、、、

先週はアメリカから来ているTimと、ずーと一緒に過ごした。といっても文字取りのずーっとではない。日々、片付けなければならないことをこなしながら、それ以外の時間はほぼ一緒に過ごした、ということだ。

そんな中で感じたのは、人と人との間合い、というものだ。お互い違う言語を話すものとして、例え表面上スムースにコミュニケーションしていても、次第に袋小路のようなところに向かっているな、と感じる時がある。なんとなくそんなムードが漂い始めたな、と感じた時、すっと話題を変えることで、袋小路に迷い込むことなく、お互い健全な間合いをキープできる。こうやって袋小路を回避すれば、長く一緒にいても気まずさを感じることが少ない。

Timはそんな間合い取りの達人だと思った。これは社交性高きアメリカ人の特性だろうか。それともTimの人柄だろうか。よくはわからないがとにかく大変勉強になった。

勉強させてもらってばかりでは申し訳ないので、日曜日は自宅に招いておもてなしをした。いろんなものを食べたり飲んだりしながら、やはり適正な距離を保ちつつ、とても楽しい時間を過ごすことができた。

そんな1週間が終わると、いくら楽しかったとは言っても、結構疲れが溜まっている。そういえば前から取り上げてきたインフルエンザの論文について、意外な形で新たな進展が見られた。

ただ、もうそれについて書く元気はない。それは次回に回させてもらって、今日はゆっくり休ませてもらいます。。。


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2011年12月22日

さて、2大メジャーはどう出るか?

前に書いた、鳥インフルエンザウイルスの感染性が亢進する変異に関する論文、例の諮問委員会の見解が出たらしい。

バイオテロの懸念があるのでウイルス作成法の詳細は掲載すべきでない。ただし、科学者がその情報へアクセスできる道は開くべし。

つまり、"Method"の一部を伏せておけば掲載しても構わんよ、ということだ。そんなアホな。。それでは「科学論文」の体を成していない。

雑誌、サイエンスとネイチャーはこの勧告にいささかとまどっているようにも見える。前も書いたが勧告に拘束力はない。さて、科学雑誌の2大メジャーはどう出るか?これら論文を書いた河岡義裕教授やRon Fouchier博士の成果はどう扱われるのだろう?

どうも科学者のみに情報へのアクセスを許す、特別な仕組みを構築する方向で話が進んでいる様子。でもそれで本当に懸念される情報拡散が防げるのか?

さてさて、引きつづきことの顛末を見守ることにしよう。。。

雑誌Natureの記事はこちら
Scienceは12月23日号で何らかの記事を掲載すると見られる。


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2011年12月03日

バイオテロ対策と情報公開

今年もインフルエンザの季節がやってきた。

厚生労働省によると6週連続で定点当たりの患者数が増加しているということだ。このまま行くと今月末には全国的な流行に突入する可能性があるらしい。そういえば今年はまだ予防接種をしていなかったな。心配な方は早めに予防接種を。

インフルエンザといえば、トリインフルエンザも警戒すべき時期に入ったようだ。既に京都府でも発生に備えた机上防疫演習を実施しているし、鳥取県では先月、1羽の野鳥の死体から国内今季初めてのウイルスを検出し警戒を強めている。

さて、ヒトへの感染拡大が懸念されるトリインフルエンザウイルスであるが、つい先ごろ、科学雑誌"New Scientist"にある記事が掲載されて、世界中が大騒ぎになっている。

オランダの科学者が、トリインフルエンザウイルスをフェレットで何代か継代することで、非常に感染力の強いウイルスを作れる「可能性」を証明してしまったらしい。これはヒト-ヒト間で爆発的な感染力を持つウイルスを人為的に作れることを意味しており、バイオテロ、という観点からは非常に大きな問題となる。

問題であるが故に、この研究論文の投稿を受けた科学雑誌"Science"は、論文を掲載する是非について「US National Science Advisory Board for Biosecurity(NSABB)」に意見を求めた。委員会から答申はまだ返されていないが、委員長はこの研究に大きな懸念を感じている様子。どんな判断が下されるかは静かに待つしかない。判断のカギは「公表して得られる利益と、公表して悪用されることによる不利益とでは、どちらが大きいか」によると思われる。NSABBの意見は"Science"の決定を拘束するものではないらしいが、さて、委員会はどんな答申を返し、"Science"は最終的にこの論文を掲載するのだろうか?

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もちろんこの手の研究はバイオテロへの悪用は懸念される。しかし一方で、ウイルスのどの遺伝子に変異が生じると高病原性に変化するかという情報は、トリインフルエンザの予防・治療薬を開発したり、防疫監視をするためには非常に重要だ。科学とは本来、成果の公開によってその発展が支えられるという大原則がある。その原則とは逆の決定がなされたとしたら、果たしてそれは「本当に」人類の利益になるのか。私達は今一度、広い視点を持って議論しておく必要があるかもしれない。

公開(論文発表)の是非という問題とは別に、今後この危ないウイルスに対するワクチン開発が大急ぎで進められるのは間違いない。アメリカやヨーロッパでは既に動きだしているだろう(あるいはもう完成しているかも?)。情報は抑えても何らかの形でいずれ必ず漏れるものである。将来、バイオテロのリスクがあるなら、その先手を打つのが賢人の考えだ。

そんなふうに強毒・トリインフルエンザウイルス対策が水面下で進むとしたら、日本はこの問題にどのように対処するだろうか。公には情報が公開されないとなったとき、日本は何らかの手段を使ってこの情報を入手し、即座に対応をすることができるだろうか。欧米との関係が微妙な現政権の下、日本だけが「情報の蚊帳の外」に置かれて不利益を被らないことを祈るのみである。

いやいや、心配するなかれ。日本にはインフルエンザ研究のトップランナー、河岡教授(東京大学医科学研究所に)がいるのだ。この"Science"掲載問題では、実は河岡教授によるほぼ同じ内容の論文も、NSABBに同時に審査されているという話だから。もしかすると、日本こそがこの問題の先陣を切り、治療・予防薬を開発しているのかもしれないぞ。

"New Scientist"の記事の詳細はこちらをどうぞ(英語です)。英語の苦手な人はキーワードでググればいっぱい情報が出て来ます。ただし、不正確なものが多いので、是非英語で確認を。

また、当事者の"Science"は、昨日12月2日号で関連記事を掲載しました。



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2011年09月25日

有分節繊維状細菌(SFB)って知ってますか?

20年ほど前、ヤクルト本社中央研究所で研究をしていた。

学位を取って初めて働いたのがここだった。腸内細菌の基礎研究をする研究室に配属された右も左もよくわかっていない私に、ひときわ面白い話を日々聞かせてくれた人がいた。名前を梅崎さんという。

梅崎さんは阪大の醗酵工学を出てヤクルトに入社した根っからの研究バカ(失礼)で、大きな問題に真っ向から取り組むという研究姿勢を、ウブな私にキチンと教えてくれた。

その頃の研究所の大きな命題は「腸内細菌はヒトや動物にとって何の意味があるのか」だった。当時の腸内細菌の世界は混沌としていて、善玉菌、悪玉菌という非科学的な表現が学会で堂々と語られるような、比較的未成熟な学問であった。

その中にあって梅崎さんは、無菌マウスに正常マウスの腸内細菌叢を人為的に定着させ(これを正常化という)、それによってマウスに生じる変化を追うことで腸内細菌の意義を解明しようとした。そして、無菌マウスの大きな盲腸がみるみる小さくなると共に、上皮細胞の表面糖鎖構造が劇的に変わり、γδT細胞という免疫細胞が粘膜下にドンドン増えてくることなどを明らかにした。

いったいどういうメカニズムでこんなことが起こるのか、その理由は長い間わからなかった。果たして特定の細菌がその現象に関わっているのか。その答えが見つかったのは1990年代半ばのことだ。マウスの腸内細菌に人口培養できない細菌がいて、こいつらが正常化に伴う様々な現象に関わっていることがわかったのである。この細菌はその特徴的な形から「segmented filamentous bacteria」と名づけられた。

あれから20年が経った。そして先日、「Cell Host & Microbe」という科学雑誌に、梅崎さんと東大の服部先生などの共同研究によるSFBのゲノム配列決定の論文が発表された。雑誌の表紙にSFBの写真がどでかく載っている。

わかったことはそれほど多くはない。宿主体内でしか生きないから、アミノ酸など代謝系の多くを失っている。これまで言われてきたようにClostridium属の細菌とよく似ている。

しかしゲノム配列がわかったことで、これからもっとも重要なことがわかってくる可能性がある。SFBはどうやって宿主の免疫能を高めるのか?なぜそのような機能を獲得したのか?この2つの問にいずれ答が見つかることになるだろう。そして善玉菌という、これまでは非科学的だった概念に、ようやく科学的な説明ができるようになるのだ。

世の中にはまだまだわけのわからない細菌がウジャウジャいる。しかもそいつらは我々人間や動物と相互作用しながら、時にひっそりと、時にちょっと良いことを(あるいは悪さを)しながら生き続けている。

私達はやっと、自分のお腹の中のことをほんの少しだけわかるようになったのだ。



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2011年09月03日

岩本亮先生とHB-EGF

昨日は阪大微研の岩本先生が大学院講義&セミナーをしてくれた。

朝から4コマ。そして1時間のセミナー。私と同世代の岩本先生でさえ、丸1日の講義&セミナーはきつかったようだ。本当に恐縮します。どうもありがとうございました。

さて、岩本先生の研究対象はHB-EGFという増殖因子だ。増殖因子でありながら膜蛋白というこいつは、かなりな「使い手」である。シェディングという過程により一部分解されて飛び道具のように離れた場所へ作用したり、細胞外マトリックスと結合することにより作用する場所決めをしたりもする。一見増殖因子でありながら複雑な制御システムの中に組み込まれ、様々な臓器で器官形成や発生に多彩な役割を演じていることが、岩本先生の研究により明らかになっている。

そんなHB-EGFというやつの話しを聞いていると、生物とはかくも複雑なことをしていたのかと改めて驚かされた。ここまでする必要があるのかと。たぶん、必要があるのだろう。でなきゃこんな複雑なことはしていないはずだ。

先週の長田先生の話が細胞死、そして今週は細胞増殖(とその制御)。生物はかくも複雑に細胞の生死を巧妙にコントロールしつつ、1つの個体の形態と機能を維持しているのだ。

自分の体で今も起こっている生と死について考えさせられた2週間であった。



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2011年08月27日

りんくうに長田重一先生がやってきた

昨日、獣医学専攻で提供する「動物バイオテクノロジー特別講義」で、京都大学の長田重一先生にお話しいただいた。

この講義は3名の講師の先生を別々に招いて生命科学のお話しをしていただいている。それぞれ朝から夕方まで4コマ分の講義と、最後に最新のデータを交えたセミナーを1時間程度していただく。比較的ゆるく運用して、あまり大きな負担をかけないよう気を遣っているが、この暑い中、講義する先生方には、もうまったく大変なご苦労をかけることになる。招く方としてはありがたいやら申し訳ないやらだ。

長田先生と言えばアポトーシスに関連した研究で世界的に知られる著名な科学者だ。先生の業績と研究姿勢についてはご自身のエッセイやJT生命誌研究館のサイエンティスト・ライブラリーを見ていただきたい。そんな有名な先生に来ていただけたきっかけは、たまたま大学の同級生が一時、先生と仕事をしていたからだ。その縁でお願いして今回の講師を引き受けていただいた。

そんな長田先生と、直接お話しするのは実は初めてだった。気さくな先生と聞いてはいたが、迎える際には相当緊張した。そんな私を尻目に長田先生はテキパキと動いて講義の準備を進められた。必要なことをピシピシと質問しながらも、その間終始にこやかに接してくださった。確かに気さくな先生で、講義中も学生達に積極的に声をかけ、彼らの理解を助けるよう気を使ってくれていた。

長田先生の仕事はわかりやすい。もちろん卓越した能力もあるが、研究ストーリー自体がわかりやすいのだ。ある現象をとっかかりに、包含される諸問題の中から大きな命題を探り出す。シンプルな手法で真向からその命題に取り組み、クリアな結果を導き出す。入り口と出口がクリアだから、ストンと頭の中にストーリーが落ちてくる。その間にあるおそらく相当な苦労や試行錯誤が、まるでなかったかのような錯覚に陥ってしまう。

しかも出て来る結果がまた面白いのである。まるで面白い結果を探りだす特別な嗅覚を持っているとしか考えられないほど。面白さとはワクワクすること。何か新しいものがでてくることを予感させる、ワクワク感が面白さと考える。このシンプルさとわかりやすさ、面白さが長田先生の研究の大きな魅力だと、私自身は勝手に思っている。

そんな先生も汗を拭き拭き述べ4時間の講義を終えた時には、さすがにヘトヘトになられていた。
1時間ほど休憩して、そして最後にセミナーで新しい研究成果を話していただいた。話はアポトーシスから新しい分野への展開が見えるもので、この先にまたとても大きな研究成果を予感させるものであった。

朝から夕方まで1日中時間を共にする中で、「1つ謎を解くと新たな謎が出てくる、その繰り返しのようですね。」と言うと、「まったくその通りだよ。だからこそ面白くてやめられないのだけどね。」とにこやかに話された。

長田先生のおかげで解けた謎がある一方で深まる謎もある。しかし間違いのないのは、長田先生が通ったところに道ができ、暗かった場所に明かりが灯ったということだろう。先生がいなければ、私達はどんな謎がそこにあるかも気付かなかったのだから。

長田先生、長時間にわたり刺激的なお話しを本当にありがとうございました。りんくうタウンの学生と教員を代表して心より感謝いたします。


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2011年08月19日

カミカゼ特攻隊?

今年も終戦記念日を迎えた。今年は特に東北大地震のこともあったので、新たな気持ちで戦争と震災についていろいろと考えた。

子供の頃、戦争に関連して母によくカミカゼ特攻隊の話しを聞いた。カミカゼは当時航空戦闘機を配備していた海軍の特殊部隊だ。行きの燃料だけ積みこみ、敵陣や敵艦に体当たり玉砕する飛行部隊。同じ目的を果たす人間魚雷というものもあったらしい。

悲惨な話だ。こんなことは2度とあってはいけない。あってはいけないこんなことを、昨日、ある科学記事を読んだ時に久しぶりに思いだした。

Cellという雑誌が発行する情報サービスに「Cell Daily News Aggregator」がある。興味のある学問分野を登録しておくと、毎日その分野の最新ニュースのヘッドラインがメールで送られてくる。昨日のニュースに「Suicide-Bombing Bacteria Could Fight Infections」というのがあった。Molecular Systems Biologyという雑誌に興味深い科学論文が掲載されたという内容だ。

紹介された論文の骨子はこうである。人の病原細菌に緑膿菌というのがいる。とびきり病原性が強いというわけではないが、高齢者や免疫力が落ちた人でやっかいな病気を引きおこす。この緑膿菌をやっつける武器として、大腸菌を使おうというのだ。

ただしタダの大腸菌ではない。緑膿菌をやっつけるための武器を大腸菌に持たせてやるのだ。1つはquorum sensingというシステムを利用した「緑膿菌センサー」、もう1つはpyocinと呼ばれる「細菌破壊兵器」。これらを持たせた大腸菌を緑膿菌の近くに置いてやれば、たちまち緑膿菌をやっつけてくれるはず、という読みだ。

しかもそれだけじゃない。著者らはpyocinを巧くばらまいて緑膿菌にふりかけるために、自爆装置もしかけておいた。pyocinが大腸菌体内で十分産生されると、自爆してpyocinをばらまくのだ。

もしこの大腸菌を人や動物の体の中に打ちこめば、どこか緑膿菌に遭遇したところで破壊兵器を猛烈に作り始め、最後に自爆して緑膿菌をやっつける。この菌は自ら緑膿菌を求めて移動する訳ではないが、理論上そういう能力を持たせることはさして難しいことではない(例えば走化性を利用する)。そうなるとまさに「カミカゼ特攻隊」だ。

まったくここまでくると生命科学の進歩とは恐ろしい。こんな人口生物を造ることができてしまうのだから。良いことに利用されるならまだしも、悪いことに利用されたらどうする。果たしてどこかで歯止めをかけることができるのか。

余談だがこのカミカゼ大腸菌はまだまだ研究段階。試験管内では十分効果のあることが確認されたが、臨床応用できる段階にはない。そもそもこんな大腸菌を人に接種してい良いのかという問題もあるし、この大腸菌が環境にばらまかれたらどうするのかという問題もある。著者らは動物実験を試みるらしいが、おそらく限られた条件での効果を見ることになるだろうな。

さて、これを読めばわかるように科学技術の発展と共に、科学者に求められる倫理観はますます高くなっている。科学の発展が両刃の剣であることは歴史が証明済みである。我々は将来にわたって「2度と起こって欲しくないことがそもそも1度目に起こることのない」ように様々な取り組みをしていく必要がある。夢のような話が1つ1つ実現するにつれ、もう一方の手で自分の首を絞めることにならないように。





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2011年07月25日

NHKの「あさイチ」

今日NHKから電話があった。以前「アインシュタインの眼」に提供した動画を「あさイチ」という番組で使いたいという。

どうぞどうぞ、ただしクレジットは入れといてね、と言うと「ありがとうございます」と言ってくれた。

さすがNHKさん。ちゃんと了承を取ってくれると嬉しくなります。ま、当たり前といれば当たり前なんだけど。

ちなみに放映は7月27日(水)の予定、「あなたが知らない食中毒の落とし穴」というコーナーだそうです。時間は未定だとか。

ただし、映像が流れるのはたったの10秒ですけどね。


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2011年06月05日

第11回サイエンスカフェ at りんくうタウン

さて、先週金曜日に開催した第11回サイエンスカフェ at りんくうタウンの報告です。

今回は宮城大学・食産業学部の森本素子さんにお越しいただき、寄生虫免疫の話をしてもらった。既に予告編のところでその森本さんの研究内容は書いたので、今回は結果に特化して報告します。

森本さんの話は3部構成だった。最初はご自身が研究の道に足を踏みいれたきっかけについて。獣医である森本さんは、最初はウシと関わる仕事をしたかったという。それが偶然、意に反して大阪府立公衆衛生研究所に配属され、ウイルス研究に携わったのが、研究の道に進むきっかけとなった。

戸惑いながらエイズウイルスの仕事をこなすうち、研究が好きな自分に気付く。結局、研究で「飯を食う」ようになるには、研究が大好きなこと、ひとかたならぬ努力、そして周りの多くの人びとの支援が欠かせない。「努力すれば道は開ける」という、学生達への重要なメッセージだ。

2部では研究の話。森本さんはマウスに固有の消化管寄生性原虫を材料に、宿主の免疫応答を解析している。この寄生虫は強い炎症を引きおこさず、慢性的に粘膜で持続感染をしている。寄生部位には通常の炎症に関わるマクロファージとは違う、逆に炎症を抑えるマクロファージが出てくるのを発見した。これが寄生虫の持続感染に働いているのではないかという。

面白いのは、にもかかわらず、虫体の周りに好中球が集積していることだ、なぜこれらが集まってくるのか、好中球の集積は寄生虫にとって吉なのか凶なのか、いったいそこで何をしているのか、考え始めると謎が深まり興味が渾々と湧いてくる。

もう1つはこの抗炎症性を利用して病気の治療ができないかを考えている。例えば糖尿病。糖尿病のモデルマウスに寄生虫を感染させると、血糖値が下がり脂肪肝が改善する。そのメカニズム解析はこれからだが、なんとも夢のある話だ。寄生虫を感染させたと同じ状況を作ってやれば、糖尿病が治せる(?)というわけだから。糖尿病に苦しむ、もの凄い数の世界中の人達にやがて朗報がもたらされるのかもしれない。

さて、森本さんは本学・獣医学科の出身で、私の後輩にあたる。会の最後には、本学のS教授、T教授、公衛研のSさんとこじんまり同胞の宴を囲んだ。次の日の朝8時台の飛行機に乗るという森本さん、それなのに10時まで付き合ってくれてありがとう。そしてご自身が震災で被害に遭われたにも関わらず、多くの被災者のために努力されている(その様子は第3部で語られた)中、大阪に来てくれてありがとう。またゆっくりお話しできるのを楽しみにしています。



posted by miyake at 06:35| Comment(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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